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神に呼ばれたモーセ

ある日モーセは、ミデヤンの祭司であるしゅうとイテロ〔別名レウエル〕の羊の群れの番をしていました。砂漠のはずれにある神の山ホレブ(シナイ山)に近い所です。 と、突然、柴の燃える炎の中に、主の使いが現れました。よく見ると、柴には火がついているのに、いつまでも燃え尽きません。 3-4 「いったい、どういうことだろう。」不思議に思いながら、そばに近寄りました。その時です。神が燃える柴の中からモーセに呼びかけました。「モーセ、モーセ。」

「は、はい。どなたでしょう。」

「それ以上近寄ってはならない。くつを脱ぎなさい。あなたが立っている場所は聖なる地だ。 わたしはあなたの先祖の神、アブラハム、イサク、ヤコブの神である。」モーセはあわてて顔を覆いました。

主は続けて語りました。「わたしの民が、エジプトで非常な苦しみを受けているのを見た。無慈悲な監督のむちを取り除いてほしい、と叫んでいる声を聞いた。 わたしは彼らをエジプト人の手から救い出す。エジプトから助け出し、乳とみつの流れる国、広々とした美しい国へ連れて行こう。今は、カナン人、ヘテ人、エモリ人、ペリジ人、ヒビ人、エブス人が住んでいる地である。 今こそイスラエル人の嘆きがよくわかった。苦役に明け暮れ、エジプト人に酷使されている。 10 そこで、あなたをエジプトの王ファラオのもとへ遣わそう。わたしの民をエジプトから助け出すのだ。」

11 「そんな大それた仕事など、とても私にはできません。」モーセは思わず叫びました。

12 「心配することはない。わたしがついている。あなたを遣わしたのがわたしだという証拠に、必ずあなたとともにいよう。人々を無事エジプトから助け出したら、この山で礼拝しなければならない。」

13 「ですが神様、イスラエル人のところへ行って、先祖の神に遣わされて来たと言ったら、きっと聞かれます。『先祖の神様とは、いったい何という名の神様だ。』その時、私はどう説明したらよいのでしょう。」

14 「わたしは『わたしはある』(「永遠に生ける神、創造者」の意で、イスラエルの神の名。「主」のもともとの意味)という者だ。『「わたしはある」という方から遣わされた』と言えばよい。 15 そして、『あなたがたの先祖アブラハム、イサク、ヤコブの神、主が私を遣わした』と言いなさい。これが永遠に変わらないわたしの名だ。」

16 神はまた、モーセに命じました。「イスラエルの長老全員を呼び集めなさい。そして神が燃える柴の中に現れ、こう語ったと伝えるのだ。『わたしの民イスラエルがエジプトでどんなに苦しんでいるかを、この目で見た。 17 しかし、もうそんな屈辱を味わうことも、つらい労働をしいられることもない。わたしが必ず救い出す。そして、今、カナン人、ヘテ人、エモリ人、ペリジ人、ヒビ人、エブス人が住んでいる、「乳とみつの流れる」国へ連れて行く』と。 18 長老たちはあなたの言うことを聞くだろうから、いっしょにエジプトの王のところへ行き、こう言うのだ。『ヘブル人の信じる神様からお告げがありました。砂漠を三日ほど行った所で、神様にいけにえをささげるようにとのことです。どうぞ出かける許可を下さい。』 19 だが、王も一筋縄ではいかない。 20 だからわたしが、いやおうなしに王が承知するようにしよう。奇跡を起こしてエジプトを懲らしめる。そのあとで、ようやく行かせることになるだろう。 21 その時には、エジプト人からたくさんの贈り物をもらえるようにする。何も持たずにエジプトを出ることは決してない。 22 女はみな、エジプト人の主人の妻や隣人から、金、銀、宝石、美しい服を求め、それらエジプトの最上のものを息子や娘たちに着させなさい。」

モーセに与えられたしるし

モーセは反論しました。「あの人たちは私を信じてくれないでしょう。私の言うことなど聞くはずがありません。『神がおまえに現れたって? それはうそだろう』と言うに決まっています。」

「モーセ、あなたが今、手にしているのは何か。」

「羊飼いの杖です。」

「地面に投げてみなさい。」そう言われて杖を投げると、たちまち蛇に変わったではありませんか。モーセは驚いて、あとずさりしました。

すかさず主は命じました。「蛇のしっぽをつかみなさい。」言われたとおりにすると、蛇は手の中で、また杖に戻りました。

「みなの前で、今と同じことをして見せるのだ。そうすれば、あなたを信じるだろう。そして、先祖アブラハム、イサク、ヤコブの神が、ほんとうにあなたに現れたのだと納得するだろう。 今度は、手をふところへ入れなさい。」また言われたとおりにして手を出してみると、なんとツァラアト(皮膚が冒され、汚れているとされた当時の疾患)にかかり、彼の手は雪のように白くなっていました。 「もう一度ふところへ入れなさい。」すると不思議なことに、ツァラアトはすっかり治っていました。

「たとえ最初の奇跡を信じなくても、二番目の奇跡は信じるだろう。 それでもまだ信じなかったら、ナイル川の水をくんで地面に注ぎなさい。水は血に変わるだろう。」

10 しかし、モーセはなおも食い下がりました。「主よ、私はとても口べたです。うまく話ができたためしがありません。こうしてお話ししていても、思うように物が言えません。すぐにつかえてしまうのです。」

11 「人間の口を造ったのはだれか。神であるわたしではないか。人が話せたり話せなかったり、目が見えたり見えなかったり、耳が聞こえたり聞こえなかったりするのは、だれの力によることか。 12 さあ、ぐずぐず言わず、わたしの言うとおりにしなさい。はっきり話せるように助け、何を話すかも教えよう。」

13 それでも、モーセは心を決めかねて言いました。「主よ、お願いです。だれかほかの人を遣わしてください。」

14 主は怒って、答えました。「もうよい。あなたの兄アロンは話すのが上手だ。ちょうど今、彼はあなたを捜しに来るところだ。あなたを見つけたら大喜びするだろう。 15 わたしが言うことを彼に教え、代わりに話してもらうがいい。二人ともうまく話せるようにわたしが助け、しなければならないことはすべて教える。 16 彼はあなたの代わりに語る。あなたはわたしの代わりに、語るべきことを彼に告げるのだ。 17 そして、あの奇跡を行うために、杖を持って行くのを忘れてはならない。」

エジプトに戻るモーセ

18 モーセは家に帰り、義父のイテロに相談しました。「お許しいただければ、エジプトに帰って親類を訪ねたいのですが……。まだ生きているかどうかさえ、わからないのです。」

「遠慮はいらない。行っておいで。」イテロは快く承知しました。

19 いよいよミデヤンの地を出発するという時、主はモーセに告げました。「エジプトへ帰るのを恐れてはならない。あなたを殺そうとしていた者たちは、みな死んだ。」

20 モーセは妻と息子たちをろばに乗せ、エジプトへ帰りました。手には、あの奇跡を行った神の杖がしっかり握りしめられていました。

21 主はモーセに言いました。「エジプトに帰ったらファラオのところへ行き、教えたとおり奇跡を行いなさい。だが彼は強情を張って、すぐにはイスラエル人の出国を認めないだろう。わたしがそうさせるのだ。 22 その時はファラオにこう言いなさい。『主はこう言われます。「イスラエルはわたしの長男である。 23 彼らがエジプトを出てわたしを礼拝できるようにせよと、わたしはあなたに命じたが、あなたは拒否した。その罰に、あなたの長男を殺す」と。』」

24 旅の途中、モーセはある所で一夜を過ごすことになりました。その時、不意に主が現れ、今にもモーセを殺そうとしました。 25-26 妻のチッポラはとっさに火打ち石をつかみ、自分の息子の包皮を切り取り、割礼を施しました。それから、切り取った息子の包皮をモーセの両足につけ、「あなたは私にとっての血の花婿です!」と叫びました。それで主は、モーセに手をかけるのをやめました。

27 さて、主はアロンに、「荒野へ行ってモーセに会いなさい」と言いました。アロンは神の山ホレブ(シナイ山)まで出かけ、モーセと会い、再会を喜び合いました。 28 モーセはアロンに、主が自分たち二人に、これから何をし、何を語るよう命じられたのかを伝えました。もちろん、エジプトのファラオの前で行わなければならない奇跡のことも話しました。

29 モーセとアロンはエジプトへ行き、イスラエル人の長老たちを集めて会合を開きました。 30 アロンは、主がモーセに語ったことをみなに話し、モーセがみなの目の前であの奇跡を行ったので、 31 長老たちは二人の話を信じました。一同は、主が人々の苦しみをごらんになり、救い出そうとしていることを聞いて大喜びし、その場にひざまずいて主を礼拝しました。

ファラオに会うモーセとアロン

その後、モーセとアロンはファラオに会いに行きました。「私どもはイスラエルの神、主のお告げを持ってまいりました。『わたしの民を行かせよ。荒野で聖なる祝宴を張り、わたしを礼拝させるためだ』とのことです。」

「ふむ、そうか。だが、どうしてこの私が、その主とやらの言うことを聞いて、イスラエル人たちを行かせなければならないのだ。主とはいったい何者だ。聞いたこともない。いちいち、そんなお告げなどに取り合ってはいられない。イスラエル人たちは絶対に行かせない。」王はきげんをそこねたようです。

しかし、アロンとモーセも引き下がりません。「ヘブル人の神様が私どもに現れたのです。私どもは荒野を三日行った所で、主にいけにえをささげなければなりません。もし神様に従わなければ、病気で死ぬか、さもなければ剣で殺されるかです。」

4-5 「ええい、いいかげんにしないか! おまえたちは自分をだれだと思っているのだ。イスラエル人にはそれでなくても仕事が山ほどある。その仕事を放り出させるつもりか。おまえたちも余計なことに口出ししないで、仕事に戻れ!」王は激高して言いました。

その日、王は腹立ちまぎれに、イスラエル人を使う監督と配下の人夫がしらに命令を出しました。 7-8 「以後れんが作り用のわら(れんがに混ぜていた)を彼らに与えてはならない。自分で取りに行かせるのだ。しかも、生産割り当ては一個たりとも減らすな。荒野へ行って自分たちの神にいけにえをささげたいなどとぬかすのは、暇を持て余しているからだ。 どんどん仕事をさせて、へとへとになるまでこき使え。モーセやアロンのうそっぱちな話を聞いていると、どんな目に会うか、思い知らせてやるのだ。」

10-11 監督と人夫がしらは、さっそくそれを全員に伝えました。「王様の命令によって、これからはわらを渡さないことになった。自分で探せ。ただし、れんがは前と同じだけ作るのだぞ。」 12 そこで、イスラエル人たちはあちこちに出かけて行って、必死でわらを集めました。

13 それでも監督は容赦しません。「一日分の仕事は前と同じにちゃんとやれ。言いわけは許さん!」ときびしく要求し、 14 イスラエル人の人夫がしらたちを打ちたたきました。「昨日の割り当て分を作らなかったな。今日も数が足りないぞ、怠け者めが。命令どおりに働け。」

15 人夫がしらたちは思い余って、ファラオのところへ嘆願に行きました。「王様、お願いでございます。こんなひどいやり方は、もうやめさせてください。 16 わら一本もらわず、前と同じ数のれんがを作るのはむりです。私たちが悪いわけでもないのに、しょっちゅうむち打たれるのはかないません。こんな理屈に合わない仕事をさせる監督が悪いのです。」

17 しかし、ファラオは相手にしません。「いいや、おまえたちは暇すぎるのだ。そうでなければ、『主にいけにえをささげに行かせてほしい』などとぬかすはずがない。 18 さあ、さっさと仕事に戻れ。わらは一本も渡さないぞ。れんがの割り当ても減らさない。今までどおり、きちんと持って来い。」

19 もう、どうにもなりません。人夫がしらたちは頭をかかえ込みました。 20 途方にくれて外に出ると、モーセとアロンが待っていました。彼らは二人の姿を見ると、 21 無性に腹が立ち、思いっきりののしりました。「ファラオやエジプト人からこんなひどい仕打ちを受けることになったのも、元はと言えばおまえたちのせいだ。まるで、われわれを殺させるための口実を与えたようなものだ。二人とも主のさばきを受けるがいい。」

22 モーセも気持ちが収まりません。主のもとに戻って抗議しました。「主よ、どうしてご自分の民なのに、こんなひどい取り扱いをなさるのですか。私が来たのは、いったい何のためでしょう。 23 あなたの命令をファラオに伝えてからというもの、事態はよくなるどころか、ますます悪くなるばかりです。それなのにあなたは、いっこうに救いの手を差し伸べてくださらないではありませんか。」

イエスを殺す陰謀

22 パン種を入れないパンを食べる、ユダヤ人の過越の祭りが近づいていました。 祭司長や他の宗教的指導者たちは、何とかしてイエスを殺そうと、あれこれ陰謀を巡らしていました。群衆の暴動を引き起こさずにイエスを葬り去る方法がないものかと、やっきになっていたのです。

さて、十二人の弟子の一人イスカリオテのユダの心に、サタンが忍び込みました。 ユダは祭司長や神殿の警備隊長たちのところへ出かけ、イエスを彼らに売り渡すのに、一番よい方法を相談しました。 彼らは大喜びし、ユダに報酬を与える約束をしました。 それでユダは、群衆が回りにいない時に、ひそかにイエスを逮捕させようと、チャンスをうかがい始めました。

さて、過越の小羊を種を入れないパンといっしょに食べる、その日になりました。 イエスはペテロとヨハネを先に遣わして、過越の食事をする場所を探させました。 「どこへ行けば、よろしいでしょう。」 10 「エルサレムに入るとすぐ、水がめを運んでいる男に出会うから、そのあとについて行きなさい。 11 彼が入った家の主人に、『私どもの先生が、弟子たちといっしょに過越の食事のできる客間を見せていただきたい、と申しておりますが』と言いなさい。 12 主人は、用意万端ととのった二階の広間を見せてくれるでしょう。そこで食事の用意をしなさい。さあ、急いで。」 13 二人が町に行ってみると、何もかも言われたとおりです。こうして、食事の準備はできあがりました。

最後の晩餐

14 やがて時間になり、一同は、その広間でそろって食卓に着きました。 15 まず口火を切ったのはイエスです。「苦しみの始まる前に、ぜひ、いっしょに過越の食事をしたいと思っていました。 16 あなたがたに言いますが、神の国で過越が実現するまで、わたしは二度と過越の食事をとることはありません。」 17 それから、ぶどう酒の杯を取り、感謝の祈りをささげてから、こう言われました。「これを分け合いなさい。 18 わたしは神の国が来るまで、もうぶどう酒を飲むことはありません。」 19 次にパンを取り、神に感謝してから、それをちぎり、弟子たち一人一人に分け与えながら言われました。「これはあなたがたに与えるわたしの体です。わたしの記念として、これを食べなさい。」 20 食事のあと、杯を弟子たちに渡して言われました。「この杯は、神があなたがたを救ってくださるという新しい契約を保証するものです。つまり、あなたがたのたましいを買い戻すために、わたしが流す血を表します。

21 しかし、この食事の席にいっしょに座っている一人が、わたしを裏切ります。 22 わたしは死ななければなりません。それが神のご計画なのです。しかし裏切り者には、どんな恐ろしいのろいが待ち受けていることでしょうか。」 23 弟子たちは、そんなことをする者はいったいだれだろう、といぶかりました。

24 また彼らの間で、やがて実現する御国でだれが一番偉いかということで議論が起こりました。 25 イエスは、それを見て言われました。「この世では、王や高官たちが支配者として権力をほしいままにしています。 26 だが、あなたがたの間では違います。一番よく人に仕える人こそ、よく人を治める人になるのです。 27 この世では、主人が食卓に着き、召使に給仕をさせます。しかし、あなたがたの間では、このわたしが給仕をするのです。 28 それにしてもあなたがたは、わたしにふりかかったさまざまの試練の時に、よくいっしょに耐え抜いてくれました。 29 だから、父がわたしに御国をお任せくださったように、わたしも、あなたがたにすばらしい特権をあげましょう。 30 御国でわたしの食卓に着き、共に食事をする特権、また王座に座って、イスラエルの十二の部族をさばく特権です。

31 シモン、シモン。いいですか。サタンがあなたがたを麦のように、ふるいにかけることを願い出ました。 32 しかし、安心しなさい。あなたの信仰がなくならないように、祈ってあげました。だから、悔い改めて立ち直った時には、仲間の者たちもしっかり立てるように、力づけてやりなさい。」 33 するとシモンは言いました。「主よ、何をおっしゃるのです。牢獄までもついてまいります。ごいっしょに死ぬ覚悟もできております。」 34 「ペテロよ。残念ですが、はっきり言います。明日の朝、鶏が鳴くまでに、あなたは三度、わたしを知らないと言うでしょう。」

35 それから、弟子たちにお尋ねになりました。「救いの福音を伝えようと、わたしがあなたがたを派遣した時、わずかのお金も、旅行袋も、着替えも持たせませんでした。その時、旅先で何か不自由しましたか。」「いいえ、何もありませんでした。」 36 「しかし今は、手持ちの物があれば、旅行袋も財布も持って行きなさい。剣がなかったら、着物を売り払ってでも手に入れなさい。 37 『彼は罪人の一人に数えられた』イザヤ53・12という預言どおりのことが、わたしに起こるのです。わたしについて言われたことは、必ずそのとおりになるのです。」 38 「先生。剣なら二振りありますが。」「それで十分です。」

逮捕されたイエス

39 それから、イエスは弟子たちと連れ立って部屋を出て、いつものようにオリーブ山に行かれました。 40 「誘惑に負けないように、神に祈りなさい。」 41-42 こう言い残すと、イエスは、石を投げれば届くあたりまで歩いて行き、ひざまずいて祈り始められました。「父よ。許していただけるなら、どうぞこの恐ろしい杯を取り除いてください。ですが、わたしの思いどおりにではなく、あなたのお心のままになさってください。」 43 この時、天から天使が現れ、イエスを力づけました。 44 イエスは苦しみもだえながら、いよいよ力を込めて祈られました。大粒の汗が、まるで血のしずくのようにしたたり落ちました。 45 ようやく立ち上がり、弟子たちのところに帰って来ると、弟子たちは悲しみのあまり、疲れ果てて眠り込んでいました。 46 「どうして眠っているのですか。さあ、起きなさい。誘惑に負けないように、祈っていなさい。」

47 こう言い終わらないうちに、十二弟子の一人ユダに先導されて、大ぜいの群衆がやって来ました。ユダはイエスに駆け寄り、さも親しげに頰に口づけのあいさつをしました。 48 しかしイエスは、あわれむように、「ユダよ。口づけでメシヤを裏切るのですか」と言われました。 49 事態の急変に取り乱した弟子たちは、「戦いましょう、先生。やつらをたたき切ってやりましょう!」と騒ぎだしました。 50 そして一人が、大祭司のしもべに襲いかかり、右の耳を切り落としました。 51 「やめなさい。それ以上手向かってはいけません。」イエスはこう命じてから、そのしもべの傷口にさわって、いやされました。 52 次に、群衆の先頭にいた祭司長、宮の警備隊長、ユダヤ人の指導者たちに向かって言われました。「剣やこん棒で武装をして来なければならないほど、わたしは凶悪犯なのですか。 53 わたしは毎日宮にいたのに、なぜそこで捕らえなかったのですか。しかし、今はあなたがたの時、サタンが勝ち誇る時なのです。」

イエスを否認するペテロ

54 人々はイエスを捕らえ、大祭司の家に引っ立てました。遠くから、ペテロが恐る恐るあとをつけて行きました。 55 家の中庭では、兵士たちがたき火を囲んで暖まっています。ペテロもその中にまぎれて座り込みました。 56 そのうち、一人の女中が火のあかりでペテロに気づき、「この人、イエスといっしょだったわ!」と叫びました。 57 「と、とんでもない! そんな人は知らんよ。」ペテロはあわてて打ち消しました。 58 しばらくすると、ほかの男が、「いいや、おまえはやつらの仲間に違いない」と言い寄りました。「違う、違う。絶対そんなことはない。」ペテロは否定しました。 59 それから一時間ほどたって、また別の男が、「おまえは確かにイエスの弟子だ。その証拠に、二人ともガリラヤ人じゃないか」と言いました。 60 ペテロは夢中で否定しました。「何のことだ! さっぱりわからない。」ペテロがこう言い終わらないうちに、鶏の鳴き声が聞こえました。 61 その瞬間、イエスはふり向き、ペテロを見つめました。ペテロは、はっと我に返りました。「明日の朝、鶏が鳴くまでに、あなたは三度、わたしを知らないと言うでしょう」と言われたイエスのことばを思い出したのです。 62 ペテロは外へ走り出て、泣きくずれました。

63-64 さて、見張りの警備員たちは、イエスをからかい始めました。目隠しをしては、こぶしでなぐり、「おい、今なぐったのはだれだ。当ててみろよ、預言者様」とはやし立てるなど、 65 ありとあらゆる侮辱を加えました。

66 夜が明けそめるころ、ユダヤの最高議会が開かれました。祭司長をはじめ、国中の指導者が勢ぞろいしています。そこへイエスは引き出され、 67-68 尋問が始まりました。「ほんとうに、おまえはメシヤ(救い主)なのか。はっきり言いなさい。」イエスは言われました。「そうだと言ったところで、信じる気はないでしょう。釈明させるつもりも。 69 しかし、栄光のメシヤであるわたしが、全能の神の右の座につく時はもうすぐ来ます。」 70 議会は騒然となり、尋問の声も荒立ってきました。「なに!あくまで神の子だと言いはるつもりか!」「そのとおりです。」イエスはお答えになりました。 71 「これだけ聞けば十分だ! 彼の口から確かに聞いたのだから。」議員たちは叫びました。